大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)91号 判決

一、原告主張の請求原因一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告が主張する審決取消事由の有無について判断する。

(一)、本願発明における潤滑剤の選択の新規性については当事者間に争いがないが、流体力学的くさびの現象を応用する、その用法について、被告は本願発明の要旨外で新規性がない旨争うので、先ずこの点について判断する。

1、成立に争いのない甲第二号証の一・二によれば、昭和四六年一二月一三日付補正書により、従前「ポリオレフインを加熱して明澄な融解液となし完成シートにおいて望んでいる厚さの二倍ないし一〇倍の半透明シートを形成し半透明シートの二分の一ないし一〇分の一厚さに減ずるのに十分な圧力と該シートの表面に施している潤滑剤の援助の下においてローラー間に該半透明シートの二枚もしくはそれ以上を通過させ透明な完成シートを得る工程よりなる透明ポリオレフインフイルムを製造する方法。」となつていた特許請求の範囲が、前記第二の二(本願発明の要旨)掲記のように補正され、潤滑剤の限定とともに、「該潤滑剤が圧縮ローラーのニツプ間で連続流体力学層としてはたらき……」と新たに捜入記載されたことが認められ、また審決が補正後の特許請求の範囲に記載された事項をそのまま本願発明の要旨として認定していることは、当事者間に争いがないところである。右経緯と成立に争いのない甲第一二号の一から四までとを総合して考えると、「連続流体力学層としてはたらき」とは、被告が主張するごとき単なる潤滑作用ではなく、流体力学的くさびの形成を意味するものと解するのが相当である。

2、ところで、成立に争いない乙第一号証の一・二・三、第四号証、甲第一二号証の一ないし四によるとシリコーン油も潤滑剤として流体力学的くさびを形成し得る性質をもつことが認められ、疎水性であることについて当事者間に争いがないポリオレフインフイルムの表面を覆うための性質として、極端に小さいかどうかは別として少なくとも表面張力が小さいことも当事者間に争いがない。したがつてシリコーン油と本願発明の選択した潤滑剤とが潤滑剤として同効物質ではないとはいいがたい。

しかしながら、成立に争いのない甲第四号証、同第五号証によると、本願発明は潤滑剤を流体力学的くさびを形成するのに十分な量で用いるのに対し、第一引用例ではシリコーン離型油は少量使用され、かつ滑り剤として添加されている点で相違する。したがつてその使用量である「少量」とは、一度のロール処理を行つた場合においてもフイルムとロールの間の表面の滑りを容易にする程度の量で十分であることが明らかである。

そうすると、第一引用例において流体力学的くさびを形成するように十分な量の潤滑剤として使用されているものとはいえず、本願発明と第一引用例とは潤滑剤の用法において差異があるものと認められる。

3、被告は、本願発明における右のような用法はこの種圧延でも従来事実上存在していた旨主張するが、これを認むべき証拠はない。

(二)、次に、本願発明が潤滑剤の選択にこれを流体力学的くさびを形成するよう用いることによる作用効果について検討する。

1、前掲甲第二号証の一・二によれば、本願発明の作用効果として明細書にはつぎの事項が記載されている。

(1)、一組のローラーを用いて二枚またはそれ以上のフイルムを圧延することができる。

(2)、圧延圧力が小さい。

(3)、高度の光沢を有し、透明度の高いフイルムが得られる。

(4)、薄いフイルムが得られる。

(5)、蒸気を通しがたいフイルムが得られる。

2、そして右甲第二号証の一・二に成立に争いのない甲第四、第五号証、同第八号証、同第一一号証の一・二を総合して本願発明と第一引用例との作用効果の差異を検討すると次のとおりである。

(1)、ロール圧力

本願発明はロール圧力が乾燥ローリングの場合の三分の一に減少すると原告は主張するが、それはシリコーン油などもふくむ潤滑剤を使用しない場合との対比であり、一方、第一引用例も乾燥ローリングの場合よりロール圧力が小さいものと認められ、両者間の差異は明確に指摘しがたいところである。

(2)、均質

本願発明で得られるフイルムが均質であると原告は主張するが、第一引用例でも、均衡のとれた、すなわちフイルムが長手方向と横手方向の両方向において測定された場合実質的に同様な機械的性質を有するフイルムを得ようというのでなければ、一度のロール処理によりある程度の均質なフイルムが得られるのであるから、この点について数値的な対比もないし、両者の差異は明らかでない。

(3)、透明

第一引用例によつても、本願発明と同様に非常に透明度および光沢が増加したフイルムが得られるが、三回ロール法であり、一度のロール処理によつて同様な効果が得られるか保証はない。これに対し本願発明は前記認定のように一回のロール処理により高度の光沢を有し、透明度の高いフイルムが得られる。また、本願発明は曇り度において市販の許容される限度内の低い水準を示しているが、第一引用例にはどの程度にこれを確保しているか何らの記載がない。

(4)、そのほか、第一引用例と明かに相違する点として、二枚以上のシートを圧延することができる点があげられる。

3、以上の認定事実からすると、その効果が定量的に示されていないため、第一引用例に比してどの程度の差異があるとまではいいがたいが、少なくとも本願発明は潤滑剤の選択とその用法によつて第一引用例とは明らかに異つた作用効果があるということができる。

(三)、以上の次第で、本願発明は潤滑剤による流体力学的くさびの形成という用法の限定をもつことにおいて第一引用例と明かに相違し、それに基づいて両者の作用効果も明らかな差異があることが認められる。そうすると、本願発明で用いる潤滑剤は第一引用例のシリコーン油と滑り剤の作用をもつ液体という点で同効物質であり、これによりすぐれた作用効果を奏するとは認められないとして、その進歩性を否定した審決は、本願発明における潤滑剤の用法の新規性ならびにそれによつてあげられる作用効果を看過した違法があり、取消を免れない。

三、よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容する。

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